「卒FIT」を迎えると売電収入が大きく減少するため、太陽光発電を導入するか迷う方が多いです。しかし、卒FITを迎えたあとの運用方法について理解できると、人によっては太陽光発電を導入したほうがよい場合があります。
そこで今回は、卒FITの詳しい概要や卒FIT後の運用方法について解説します。まもなく卒FITの期間が満了し、運用方法に困っている方はぜひ参考にしてください。
卒FITとは?
卒FITとは、FIT制度の期間が満了することを指します。住宅用太陽光発電のFIT制度の適用期間は10年であり、近年卒FITを迎えているのは住宅用の太陽光発電です。産業用太陽光発電のFIT制度の適用期間は20年であり、FITの適用期間は異なります。
そもそもFIT制度とは
FIT制度は固定価格買い取り制度のことであり、FIT制度の適用期間に電力を売却すると高値で売れるメリットがあります。卒FITを迎えると売電価格が下がることから、これまで運用していた太陽光発電を売却する方も多数います。
住宅用の余剰電力買い取り制度は、2009年11月に始まりました。住宅用のFITの買い取り期間は10年であるため、仮に2010年1月にFIT認定を受け発電を開始した太陽光発電を購入した場合は、2020年の1月までFIT価格で売電できます。FITの認定が古いほうが売電価格は高いため、あえて中古の太陽光発電を購入する方もいます。
このFIT認定期間を迎えることを、「卒FIT」と呼びます。卒FITを迎えると電力を販売できなくなるわけではありませんが、売電価格が大幅に下落するため対策が求められます。売電価格が下がるだけでなく、耐用年数の経過により設備の故障やメンテナンスが今まで以上に必要になります。卒FITを迎えた太陽光発電の運用方法は個人により異なるため、ご自身にもっともあう方法で運用するのが望ましいでしょう。
FIT制度は太陽光発電だけでなく、再生可能エネルギーが対象です。太陽光以外では風力や地熱、バイオマス、水力などがFIT制度に該当します。10kW以下の太陽光発電でみると、2014年のFIT価格は37円だったのに対し、2024年のFIT価格は16円となっています。産業用の50kW~250kWの太陽光発電では、2014年のFIT価格が32円であるのに対し、2024年のFIT価格は9.2円となっています。
住居用と産業用のどちらでも、太陽光発電のFIT価格は減少傾向にあります。FITの適用期間を終了するとさらに売電価格が減少するため、卒FITを迎えたあとの運用方法についても事前に考えておく必要があります。
以下の記事では、FIT価格のメリット・デメリットなどを詳しく紹介していますのであわせてご覧ください。
FIT(固定価格買取制度)とは|買取価格の推移やメリット・デメリットを解説
卒FITを迎えると買い取り価格が下がる
卒FITを迎えると、買い取り価格は大幅に下落します。下記の表は大手電力会社の買い取り価格とFITによる買い取り価格の一覧です。
2024年度における大手電力会社とFIT価格の比較
大手電力会社の買い取り価格(kWh) | 10kW未満のFITによる売電価格(kWh) | 10kW~50kWのFITによる売電価格(kWh) | 50kW~250kWのFITによる売電価格(kWh) |
北海道電力(8円) | 16円 | 10円 | 9.2円 |
東北電力(9円) | |||
東京電力(8.5円) | |||
中部電力(7円) | |||
関西電力(8円) | |||
北陸電力(8円) | |||
中国電力(7.15円) | |||
四国電力(7円) | |||
九州電力(7円) | |||
沖縄電力(7.7円) |
2024年度のFIT制度は、大手電力会社の買い取り価格よりも高い売電価格をキープしています。FIT適用期間の売電価格は、再生可能エネルギー発電促進賦課金が充てられています。これはすべての家庭や企業から徴収するものであり、再生可能エネルギーを普及させるために導入されています。卒FITを迎えた太陽光発電は、再生可能エネルギー発電促進賦課金の対象外になるため、売電価格が下がります。
卒FITを迎える方が考えるべきなのは、FIT価格の下落だけではありません。近年の電気料金の高騰から、FIT卒業後の売電価格をみると、かなり減少していることがわかります。単に売電するだけでなく、自家消費したり高い価格の電力会社に売電したり対策しないと、太陽光発電投資が失敗になる恐れがあるため注意が必要です。
卒FIT後の太陽光発電の選択肢
卒FITを迎えても、発電した電力を売ることは可能です。しかし、売電を継続せずに自家消費したり、ほかの電力会社に販売したりするほうがよい場合があります。ここでは、卒FIT後の太陽光発電の運用の選択肢について解説します。
1.売電を継続する
同じ電力会社に売電を継続する方法があります。卒FITを迎えても売電をそのまま継続できるため、わざわざほかの電力会社を探す必要はありません。契約更新が自動更新である場合は、そのまま売電を継続できるでしょう。同じ電力会社に売電を継続すると、次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
同じ電力会社に売電を継続すると、新規契約を行わなくて済む点がメリットです。新規契約先を探そうとすると時間と手間がかかるため、そのまま継続して売電を行いたい方は、同じ電力会社のままでしょう。
ほかの電力会社と新たに新規契約を結ぶと、契約内容が異なる場合があります。契約内容が異なると、これまでのサポート内容がない場合があるため、また一から業者を探す必要があります。
デメリット
同じ電力会社に売電を継続するデメリットは、売電価格が下がる点です。FIT適用期間の売電価格は高く設定されているため、売電収入を気にする方はほかの電力業者を探すのがよいでしょう。電力を買い取ってくれるのは大手電力会社だけでなく、中小企業などでも買い取ってくれます。中小企業のほうが、売電価格は高い場合があります。
売電価格が大幅に下がると、これまでのように運用するのが難しくなる場合があります。設備が劣化することも想定すると、メンテナンス費用も今まで以上にかかります。同じ電力会社に売電を継続する際は、収支シミュレーションをきちんと行って赤字にならないかを確認する必要があります。
2.別の電力業者へ売電する
卒FITを迎えた場合、別の電力会社へ売電することも可能です。同じ電力会社に売電を継続すると手続きが不要でそのまま運用できますが、別の電力会社のほうが高く売れる場合があります。別の電力業者へ売電する際のメリット・デメリットについて解説します。
メリット
別の電力会社を探すと、今までの電力会社よりも売電価格が高い場合があります。卒FITを迎えると自由に業者を選べるため、売電価格を比較しながら業者を選択できます。売電価格は、大手の電力会社よりも中小企業の電力会社に販売したほうが高く売れるケースが多いです。
1kWあたりの売電価格で、5円ほど高く設定している中小企業もあるため、より売電価格の高いところに売電したい場合は、売電価格の高い電力会社を探すのがよいでしょう。
新しく電力会社を探す際は、契約内容をきちんと確認することが重要です。売電価格が高くても、保証やサービス内容があまり充実していないことがあります。売電価格だけでなく、全体のバランスを考えて電力会社を探しましょう。
デメリット
別の電力会社を探すデメリットは、いくつか業者を比較しなければいけない点です。売電価格や契約内容、保証内容は業者により大きく異なります。しかし、複数の電力会社を比較すると時間と手間がかかるため、新しく契約することが煩わしい方は同じ電力会社に売電するのがよいでしょう。
3.蓄電池やEV、エコキュートを購入して自家消費する
電力会社に売電せずに、自家消費する方法もあります。近年では電気代の高騰により、売電するよりも自家消費したほうが安く済む場合があるため、状況をみて選択するのがよいでしょう。自家消費する方法としては、蓄電池やEV、エコキュートを利用して自家消費する方法があります。
蓄電池は発電した電気をためておけるため、必要なときに使用できます。停電時などは電気が使えないため、蓄電池を設置しておくと安心できるでしょう。EVとして利用すると、電気自動車のエネルギーを自家発電できます。自家発電はエネルギーを効率的に使えるだけでなく、環境にも優しいメリットがあります。EVで使用する際は蓄電池としての役割も果たし、使用方法もいくつかあり便利です。
エコキュートとして使用すると、お湯を作る際にガスや灯油を必要としません。空気中の熱を集めて水を温める方法もありますが、太陽光発電を利用してお湯を温めるエコキュートもあります。太陽光発電と合わせてエコキュートを利用すると、ガスや灯油の代金を節約できます。
メリット
自家発電のメリットは、電気代が安くなる点です。電気代の高騰により、売電するよりも自家消費を選択したほうがお得になる場合があります。大手電力会社の売電価格が1kWあたり8円、自社の電気料金が1kWあたり30円である場合は、自家消費したほうがお得です。地域や状況により、売電するよりも自家消費を選択したほうがよいケースがあるため確認が必要です。
また、自家消費を選択すると災害や停電時などで自由に電力を使用できます。停電時は電気が使えないため、蓄電池に電気をためておくといつでも使用できます。自家消費として使用できなかった分を蓄電池にためて運用するやり方もあります。
デメリット
自家消費を選択すると、導入費用がかかるのがデメリットといえます。蓄電池やEV、エコキュートなどを利用する際には設備を設置する必要があり、初期投資が必要です。蓄電池などは大きな容量のものを購入すると高額な費用がかかるため、初期費用の金額を計算しておく必要があります。
蓄電池を選ぶポイント
自家消費を選択する場合は、蓄電池と併用して利用する方が多いです。蓄電池は自家消費できなかった電力を蓄電池にためておけるため、効率よく電力を消費できます。蓄電池を選ぶポイントは使用用途を考えて選ぶ必要があります。
蓄電池の種類で、コンセントを使用せずに分電盤などを通じて電力を供給する「連携型」の蓄電池があります。連携型の蓄電池は、停電が起こったときでも太陽光発電が作動していれば、電力を継続的にためておけます。
ほかの種類では、EVから充放電が可能な「EV対応型」の蓄電池もあります。EV対応型の蓄電池は、商品によっては商業電力や太陽光発電からの充電も可能であり、連携型よりも充電容量が大きいメリットがあります。災害時だけに限らず毎日の生活においても、昼間はEV対応型の蓄電池に充電を行い、夜は蓄電池の電気を使用する方法も可能です。
蓄電池を選ぶ際は、蓄電池のサイズや充電可能回数、充電容量、太陽光発電との併用の有無を確認する必要があります。蓄電池のなかには太陽光発電と併用不可なものもあるため、購入前に必ず確認してください。
また、保証内容も確認しておく必要があります。蓄電池は長期間使用する設備のため、保証期間が長いメーカーのものを購入するのが望ましいです。
蓄電池は、蓄電池の容量の大きさにもよりますが数十万円~数百万円も設置費用がかかります。いつでも電力を使用できるメリットがある反面、購入する費用が高いため気軽には設置できないデメリットがあります。初期投資の費用やランニングコストなどを事前に計算して、負担のない運用プランを考えて購入しましょう。
まとめ
今回は、太陽光発電が卒FITを迎えた際の運用方法について解説しました。卒FITを迎えると売電価格が下落して、今まで以上に売電収入が得られなくなります。卒FITを迎えたあとの運用方法を知っておくことで、ご自身にあった適切な方法を選べます。卒FITを迎えたあとの運用方法のメリット・デメリットを理解して、太陽光発電を運用しましょう。