産業用の太陽光発電とは?家庭用との違いや設置費用、税金を解説

産業用太陽光発電は、企業や自治体が大規模な電力供給を目的として設置するシステムです。これらのシステムは再生可能エネルギー源としての利用拡大を背景に、環境負荷を低減するだけでなく、長期的なエネルギーコストの削減にも貢献できます。

産業用と家庭用では、さまざまな違いがあります。この記事では、産業用太陽光発電システムの基本構成をはじめ、設置に必要な面積、初期及び維持費用、そして税制上の優遇措置などについて解説します。

さらに、2024年から導入される新たなFIT制度の概要と、産業用太陽光発電を設置することの経済的・環境的メリットについても詳しく説明します。太陽光発電の導入を検討する際の参考にしていただければ幸いです。

目次

産業用太陽光発電とは?

産業用太陽光発電とは、容量10kW以上の太陽光発電のことです。産業用太陽光発電で発電した電力は、「全量買取型太陽光発電」と「余剰買取型太陽光発電」の2つのタイプを選べます。

全量買取型太陽光発電余剰買取型太陽光発電
発電した電力をすべて電力会社に売却し、固定価格で20年間買い取ってもらうシステムです。これにより、企業や個人は安定した売電収入を得られます。発電した電気を自社施設で消費し、余った電力を売電する方法です。固定価格買取制度の売電単価が下がる傾向にあるため、自家消費で電気代を節約すると経済的に有利です。

それぞれの財政状況や事業への見通しにより、どちらのタイプが合うか検討しましょう。

太陽光発電の産業用と家庭用との違い6つ

太陽光発電には、「産業用」だけでなく「家庭用」もあります。産業用と住宅用の主な違いは以下の6つです。

  1. 出力容量の違い
  2. 電力の使い方の違い
  3. 買取価格と買取期間の違い
  4. 補助金の有無の違い
  5. パワーコンディショナーの違い
  6. 設置架台の違い

以下で詳しく解説します。

出力容量の違い

1つ目は、出力容量がそれぞれ異なっている点です。

家庭用太陽光発電産業用太陽光発電
出力10kW未満出力10kW以上

家庭用に設置されている太陽光発電であっても、出力が10kWであれば、産業用太陽光発電に分類されます。

電力の使い方の違い

2つ目は、電力の使い方の違いです。家庭用の太陽光発電は、基本、住宅や小規模施設で活用されることが想定されて設置されます。一方で、産業用太陽光発電は工場や大規模な施設など、電気の使用量が多い場所で利用されることが多いです。施設内すべての電力を太陽光発電に頼ることを目的にしている場合もあります。

買取価格と買取期間の違い

買取価格と買取期間にも違いがあります。買取方法は、主に「全量買取型太陽光発電」と「余剰買取型太陽光発電」の2つです。買取価格・買取期間は、出力により異なります。そのため、出力が異なる家庭用と産業用では買取価格や買取期間も違うというわけです。

 全量買取型太陽光発電余剰買取型太陽光発電
出力容量50kW以上(産業用)10kW以上(産業用)10kW未満(家庭用)
価格9.2円/kWh地上設置 10円/kWh屋根設置 12円/kWh16円/kWh
買取期間20年間20年間10年間

参考:再生可能エネルギーFIT/FIP制度ガイドブック2023年度版

補助金の有無の違い

補助金の有無の違いも大きいです。

家庭用の補助金産業用の補助金
国や自治体によって、補助金の対象になる場合があります。蓄電池に関しては、「子育てエコホーム支援事業」補助を受けられます。詳しくは、住んでいる自治体をご確認ください。太陽光発電単体での補助金は少ないですが、さまざまな国からの補助金を利用可能です。詳しくは、環境省のホームページをご確認ください。

パワーコンディショナーの違い

パワーコンディショナーとは、太陽光パネルで発電した「直流電力」を家庭や産業用の建物に使用できる「交流電力」に変換する装置のことです。産業用太陽光発電と家庭用太陽光発電は、パワーコンディショナーも大きく異なります。

家庭用のパワーコンディショナー産業用パワーコンディショナー
通常2kW~5kW用通常10kW 100kWシステムの場合は10kWのパワーコンディショナーを10台連結して使用することが多いです。。

設置架台の違い

設置架台にも違いがあります。

家庭用産業用
通常、屋根に設置します。住宅の屋根材に合わせてキット化された架台が使用される場合が多いです。通常、ビルの屋上や遊休地などに野立て設置します。架台は特注品専用に設計されることが多いです。

産業用太陽光発電のシステム構成

産業用太陽光発電は、下記表のようなもので造られています。

太陽光パネル太陽光エネルギーを直流電力に変換する装置です。太陽電池・ソーラーパネル・太陽光発電モジュールとも呼ばれます。
パワーコンディショナー直流電力を交流電力に変換し、建物内で使用可能な電力にする装置です。
架台太陽光パネルを設置するための台です。
接続箱各太陽光パネルから発電した電気をまとめ、パワーコンディショナーに送る機器です。
分電盤配線用遮断器や漏電遮断器などを集めた電気設備です。
受変電設備高圧の電気を使用可能な電圧に変換する設備です。
キュービクル     50kW以上の電力需要が見込まれる施設に設置され、金属製の箱の中に収納される受変電設備です。
遠隔監視システムシステムの稼働状況や発電量などを24時間365日遠隔から監視するシステムです。
気温計・日射計発電効率を把握するための機器です。
電力メーター発電した電力の売電量や電力会社からの買電量を測定する装置です。

産業用太陽光発電の設置に必要な面積

設置面積に関しては、1kWを設置するために「約10㎡」必要なため、設置する出力容量により変わります。実際にどのくらいの面積が必要かは、多くの場合は現地調査をしてみないと判断できないでしょう。

産業用太陽光発電の設置費用の目安

産業用太陽光発電の設置費用は、プロジェクトの規模や地域、使用される技術や材料などにより大きく異なります。

まずは、太陽光発電の設置費用の要素をご紹介します。

パネルの種類と容量システムの容量が大きければ大きいほど、費用も増加します。高効率のパネルは価格が高めですが、発電効率が良いため長期的に見るとコストパフォーマンスがいいです。
インバーター太陽光発電で生成された直流電力を交流電力に変換する装置で、システムの効率に直接影響します。
取り付け工事地盤の種類や設置場所の環境により、工事費用が変動します。屋根に設置する場合と地面に設置する場合は、必要な構造物が異なるためコストが変わります。
運用とメンテナンス定期的なメンテナンスや運用管理の費用も計画に含める必要があります。

産業用太陽光発電システムの設置費用は、一般的に10kW以上のシステムで、数百万円から数千万円の範囲です。設置費用は1kWあたり、約10万円から20万円が相場といわれています。大規模なプロジェクトでは、総額で数千万円に上るのが一般的です。

設置費用を抑える方法として、国または地方自治体の補助金や助成金の活用が考えられます。補助金や助成金を利用することで初期投資を大幅に削減可能であり、設置後の運用コストに対する負担も軽減されます。

産業用太陽光発電の設置は、大きな初期投資が必要なプロジェクトです。しかし以上の点から、適切な計画と補助金を活用することで、長期的には持続可能なエネルギー供給源としてのメリットが大きいといえるでしょう。設置を検討する場合は、複数の業者に具体的な見積もりをとり、費用対効果を慎重に評価するのがおすすめです。

産業用太陽光発電の維持費

産業用太陽光発電には、当然ながら維持費が発生します。以下のような維持費が代表的です。

  • メンテナンス費用
  • 太陽光パネルの清掃費用
  • システム交換費用
  • 保険料

以下で詳しく解説します。

メンテナンス費用

産業用太陽光発電のメンテナンス費用は、1kWあたり約0.5万円/年と想定できます。容量ごとに見ると、以下の通りです。

10kW5万円 / 年
50kW25万円 / 年
100kW50万円 / 年

法定点検は、50kW未満でFITを利用しないものは義務化されていません。しかし、パフォーマンスを維持するために必要な費用として考えておくとよいでしょう。

太陽光パネルの清掃費

太陽光パネルは、定期的に清掃する必要があります。太陽光パネルは野外に設置されるため、さまざまな汚れが付きやすいです。汚れをそのままにしておくと発電効率が低下する可能性もあるため、定期的に清掃するのが好ましいといえます。

清掃費は、基本料金1万〜5万にプラスして、パネル1枚につき500円〜1,000円の場合が多いです。1回あたりの清掃費は、容量ごとに見ると以下の通りです。

10kW1万円〜5万円
50kW5万円〜25万円
100kW10万円〜50万円

業者により作業料金がさまざまなため、複数業者から相見積もりをお願いしたほうがよいでしょう。なお、清掃の頻度は年に1〜2回が目安です。梅雨明けや夏の乾燥している時期など、気候が安定しているタイミングを選ぶと綺麗な状態を維持しやすいです。

システム交換費用

システム交換費用も必要です。一般的に、太陽光パネルの寿命は、平均20〜30年といわれています。パワーコンディショナーは10〜15年のため、1度は交換することになるでしょう。交換費用は、1台30万円〜40万円です。10年以内の故障についてはメーカー保証が効く場合もあるため、設置する際に確認しておきましょう。

保険料

産業用太陽光発電を導入する場合は、いくつかの保険に入っておくと安心です。保険に入っておくことで、太陽光発電の施設で起こりうるリスクに備えられます。例えば、以下のような保険があります。

  • 動産総合保険

物品の損害や紛失に対する保険

  • 施設所有者賠償責任保険

建物や施設に関連する損害賠償責任に対する保険

  • 休業補償保険

施設の休業による損害をカバーする保険

施設の実態に合わせて、必要な保険を活用しましょう。

産業用太陽光発電にかかる税金

産業用太陽光発電には、さまざまな税金が課税されます。

所得税産業用太陽光発電で得られた売電収入が対象です。課税所得金額は収入から必要経費を差し引いた金額で、課税率は所得に応じて変動します。
消費税太陽光発電設備や施工費などの購入にかかる消費税です。産業用太陽光発電の場合、余剰電力を電力会社に売却する際には消費税が関与します。
固定資産税設備が移動できないものと見なされるため、産業用太陽光発電設備は固定資産税の対象です。賃貸型のものはかかりません。

なお、以下のような場合は所得税がかからないケースもあります。

  1. 売電収入が20万円以下
  2. 雑所得が20万円以下

また、取り外し可能なパネルを設置した場合は、固定資産税もかからない場合もありますが、家庭用の場合が多いです。

産業用太陽光発電を設置する3つのメリット

産業用太陽光発電を設置するメリットは以下の3つです。

  1. 土地の有効活用ができる
  2. 非常用の電力として活用できる
  3. 税制面での優遇がある

それぞれのメリットを以下で解説します。

土地の有効活用ができる

1つ目のメリットは、土地を有効活用できることです。利用していない農地や山林を活用できます。自家消費できる電力を発電することで、エネルギーコストを削減できます。さらに、大規模な太陽光発電を導入する場合は、投資回収の速さや売電収益の期待も高いです。

最近では、既存の農地にパネルを設置し太陽光発電と並行して農業を行う「ソーラーシェアリング」にも注目が集まっています。ソーラーシェアリングの電力は、ビニールハウス内の温度管理などに利用されています。

非常用の電力として活用できる

太陽光発電は、災害時の非常用の電力として利用できます。日本は災害リスクが高いといわれており、さまざまな備えが不可欠です。また、昨今の電力への依存度が高まっている傾向もあり、安定した電力供給が期待できる太陽光発電は、とても重要な立場にあります。

太陽光発電ですべて自家消費できるようになれば、停電時でも事業活動を継続できます。蓄電池を利用すれば、夜間の電力利用も可能です。

税制面での優遇がある

産業用太陽光発電を取り入れることで、税制面での優遇もあります。政府や各省庁は、環境保護を推進するために、太陽光発電などを取り入れようとしている企業を積極的にサポートしていることが背景にあります。

日本政府が「カーボンニュートラル」を宣言したことから、太陽光発電の導入は急務になりました。具体的な支援策としては、中小企業経営強化税制やストレージパリティ促進補助金が挙げられます。これらの措置により太陽光発電の導入コストが下がり、事業者は再生可能エネルギーへの投資をしやすくなってきています。

2024年からは産業用「屋根設置太陽光」FIT制度が新設

FITとは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の略語です。再生可能エネルギーで発電した電気を、国が「20年間(家庭用は10年間)」同じ価格で買い取ってくれることを保障している制度です。太陽光発電もFITに分類されます。

2024年度からFITでは、10kW以上の屋根設置型の太陽光発電システムで発電した電気を、地上設置型よりも高い12円/kWhで買い取る制度が新設されます。太陽光パネルの設置場所により買取価格に差を設ける初めての試みで、工場などの屋根に設置する場合の建設コストを考慮したものとみられます。

FIT制度の新設により、産業用太陽光発電の導入がさらに促進されることが期待されるでしょう。政策の背景には、屋根設置型のシステムが土地利用に関する制約が少ないというメリットがあります。また、工場・倉庫・オフィスビルの屋根など、既存の建物のスペースを有効活用できます。そのため、新たな土地を確保する必要がなく、設置初期コストの削減ができるのも大きいです。企業のエネルギーコスト削減とともに、国の再生可能エネルギー普及目標達成に貢献することが期待されています。

まとめ

産業用太陽光発電を取り入れることで、エネルギーコストの削減や環境への配慮、エネルギー自給の強化など、多くのメリットをもたらします。設置費用は初期投資が必要ですが、長い目で見ると、長期的な運用による収益や補助金などの国からのサポートを通じて、相殺できることも多いです。

また、メンテナンス費用やその他の維持費も計画的に管理することで、システム効率や寿命を最大限に延ばすことも可能です。税制面での優遇措置や新設されるFIT制度による支援も、産業用太陽光発電の普及を後押ししてくれるでしょう。

以上のようなことから、産業用太陽光発電は持続可能なビジネスモデルであり、エネルギー需給の多様化を図るうえで重要な役割を果たすことは明らかです。投資判断を行う際は、本記事で解説した点を総合的に考慮し、具体的な計画と戦略のもとで導入を進めてください。

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