野立て太陽光発電とは?設置費用や年間収支シミュレーションを紹介

野立て太陽光発電とは、建物の屋根などに設置する従来の太陽光発電とは異なり、地上に設置して発電を行うことです。ここでは、野立て太陽光発電の導入に関わる設置費用や、年間収支のシミュレーションなどについて解説します。

目次

野立て太陽光発電とは?

野立て太陽光発電とは、太陽光発電の一種です。よく見る太陽光発電のように、家屋や建物の屋根に太陽光パネルを設置するのではなく、遊休地や利用していない田畑などの土地に直接太陽光パネルを設置する方法を指します。

野立て太陽光発電は、主に企業などが大規模な土地を利用して行っているイメージが強いですが、実際は個人でも始められます。野立て太陽光発電は株などよりリスクが低く、安定した利益が得られます。そのため、新しい投資先として近年注目を集めています。

野立て太陽光発電の設置方法は土地の基盤を整えたあとに、その土地に合った方法で発電設備を設置します。土地を造成してコンクリートで基礎を作ってから、太陽光発電パネルを設置する台を作ったり、スクリュー杭という大きなねじを地面に打ち込んで設備を設置したりします。工事は、約3~6か月で完了します。

野立て太陽光発電を始めるにあたり、売電方法や出力容量についても知っておく必要があります。売電方法は、「固定価格買取制度(FIT制度)を利用した大手電力会社への売電」、「FIT制度非適用または卒FIT後の場合での任意の電力会社への売電」、「オフサイトPPAによる法人への売電」の3種類です。このうち、もっとも主流なのはFIT制度を利用した売電です。

FIT制度は、政府が定めている制度です。事業者や個人が再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定期間にわたり固定価格で買い取ることを保証しています。産業用太陽光発電で出力10kW以上のものであれば、20年間固定価格で電気を売れます。このFIT制度により、太陽光発電投資の安定性が保たれています。

また、野立て太陽光発電の出力容量については3種類あります。50kW未満の低圧、50kW以上2,000kW未満の高圧、2,000kW以上の特別高圧(メガソーラー)の3つで、いずれも10kW以上を発電できる産業用太陽光発電が多いです。

ただし、産業用太陽光発電ならどれでもよいというわけではなく、設備容量を選ぶときには注意が必要です。2019年までは、野立て太陽光発電は10kW以上の設備容量であれば、生み出した電気を全量買い取ってもらえる「全量買い取り」が選べました。しかし、2020年からは余剰電力のみの買い取りとなり、50kW未満の場合は発電量に対して3割の自家消費の義務付けが始まりました。依然として全額買い取りを選ぶことも可能ですが、その場合は50kW以上の高圧容量が必要になります。

このように野立て太陽光発電では、設備容量によっては発電した電気をすべて売れない可能性もあります。そのため、野立て太陽光発電を行うときは利用できる敷地面積、その土地に合った設備容量などをよく踏まえたうえで計画を立てることが重要です。

設置に必要な面積

産業用太陽光発電として認められる10kW以上の野立て太陽光発電設備を設置するためには、約100平方メートル、坪数でいうと30坪の土地面積が必要です。ただし、この面積すべてに太陽光パネルを設置できるわけではありません。

野立て太陽光発電では太陽光パネルのほかにも、電気設備や立ち入り防止のフェンス、メンテナンス用の通路などの設備の面積を確保する必要があります。面積や設備容量を計算するときは、これらの加算も忘れずに行いましょう。

以下では、土地面積から設置可能な設備容量を求める方法と、設備容量から必要な土地面積を求める方法を紹介します。土地面積をもとにシミュレーションを行い、野立て太陽光発電のイメージをより具体的なものにしましょう。

野立て太陽光発電設備の容量を計算するには、2段階に分けて計算を行う必要があります。はじめに太陽光パネルを設置できる土地面積を計算して、それを1kWあたりの発電に必要な面積で割り、何kW容量の設備が設置できるかを算出します。

まず、利用可能な土地面積の計算式は「(縦の長さ – 2m) × (横の長さ – 2m) = 利用できる土地の面積(平方メートル)」で求めます。2mずつ引いているのは、太陽光パネル以外の設備のための面積を確保するためです。

次に、この面積を1kWの発電あたりに必要な面積で割ります。環境省によると、野立て太陽光発電では、1kWの太陽光パネルを設置するために約15mの面積が必要とされています。そのため、利用可能面積を15で割ることで何kW設置可能かがわかります。計算式は、「利用できる土地の面積(㎡) ÷ 15(㎡) = 設置できる設備容量(kW)」です。

これらを踏まえて計算例を挙げると、縦20m、横20mの土地があった場合、利用可能な土地面積は324㎡、設置できる設備容量は21.6kWと算出できます。

次に、設置したい設備の容量をもとに、野立て太陽光発電に必要な面積を計算する方法を紹介します。この場合も、2段階に分けて計算を行います。まず、太陽光パネルの設置に必要な面積を算出してから、その他設備の設置面積を含む合計面積を求めます。

太陽光パネルの設置に必要な面積の計算方法は、導入したい設備の容量に太陽光パネルを1kW設置するために必要な面積をかけます。先述したように、1kWあたりの発電には15㎡が必要です。そのため、計算式は「導入したい設備容量(kW) × 15(㎡) = 太陽光パネルの設置面積(㎡)」です。

次に、この面積の縦横の長さを仮定して他設備の設置に必要な長さをプラスし、最終的に必要な設備面積を算出します。その他設備には、縦横でそれぞれ1m以上は必要なため、縦横に2mずつプラスします。計算式は、「(太陽光パネルの設置面積の縦の長さ + 2m) × (太陽光パネルの設置面積の横の長さ + 2m) = 全設備を設置するために必要な面積(㎡)」で、設備容量から必要な面積を導きだせます。

具体的に計算をしてみましょう。50kWの野立て太陽光発電設備を導入する場合、まず太陽光パネルの設置に必要な面積は、50 × 15 で750㎡です。この面積の縦横の長さを、縦10m、横75mと仮定します。他設備のために2mずつ足してかけ直すと、全設備に必要な面積は12 × 77で924㎡と計算できます。

野立て太陽光発電にかかる費用

野立て太陽光発電にかかる費用は、初期費用、諸費用、維持費の3つに分けられます。それぞれいくらくらいかかるのか、また項目の内訳など詳しい内容について説明します。野立て太陽光発電を始めるにあたっての参考にしてください。

初期費用

野立て太陽光発電の初期費用の目安は、1,500万から2,000万円です。1kWあたりの価格でいうと、50kW未満では24.7万円/kW、50kW以上1,000kW未満では16.8万円/kW、1,000kW以上では18.0万円/kW程度です。基本的には設備の出力容量が大きいほど、1kWあたりの価格が低くなる傾向があります。

初期費用の内訳は、設備費用、工事費用、土地購入費用などに分けられます。設備費用は、太陽光パネル、パワーコンディショナー、操作表示ユニット、架台などを合わせて、1,200万から1,500万円程度かかります。

工事費用は、土地を造成したり、水はけをよくする整地費用を含め300万から500万円が目安です。土地購入費用は、地域や面積によって変動します。初期費用では、設備費用がもっともかかります。中には土地と設備がセットになって売られている物件もありますが、その場合も1,500万円以上は必要と想定しておきましょう。

諸費用

野立て太陽光発電の諸費用としては、5万円から60万円程度かかる場合があります。諸費用とは、初期費用や維持費用以外に必要な費用をまとめて指しています。設置する設備の容量や土地の状態次第で、必要がない場合もあります。

諸費用の内訳は、主に2種類あります。1つは、電力会社との接続検討費用です。これは、電力会社の電力供給設備に自己の太陽光発電を接続するときに行う、手続きや工事のための費用です。50kW未満の設備容量であれば費用はかからず、手続きのみを行います。一方で、50kW以上の高圧連携設備を設置する場合は費用がかかり、20万円程度必要です。

諸費用の内訳の2つめは、農地を利用する場合に必要な地目変更の手続き費用です。これは、5万円から40万円程度かかります。

維持費

野立て太陽光発電の維持費は年間で、1kWあたり0.28万円/kWから0.56万円/kWほどかかると予想されます。具体的な費用は設備容量によって異なり、50kW未満の低圧なら0.56万円/kW、50kW以上2,000kW未満の高圧なら0.34万円/kW、2,000kW以上の特別高圧なら0.28万円/kW程度です。初期費用と同じく、容量が大きいほど必要な費用が少なくなります。

維持費の内訳は、およそ7項目に分類できます。それぞれの内容や費用の目安は、まずメンテナンス費用に1回2万円かかります。メンテナンスは設備設置から1年、5年、9年ごとに行うのがよいとされています。9年目以降は、4年に1回ごとに行います。

他の維持費の内訳は、発電障害を防ぐための清掃費用に10万円、長期運用におけるトラブル発見のための遠隔監視システム費用に4万円程度、損害保険料が初期費用の0.3~3%、パワーコンディショナーの買い替え費用に10年に1度で100~200万円がかかります。

また、パワーコンディショナーの種類にもよりますが、夜間の待機電力としての電気代は6,000円~30,000円程度かかります。最後に固定資産税や所得税として、収益と設備に基づいた金額が差し引かれます。

野立て太陽光発電のメリット5つ

野立て太陽光発電は、安定性や土地活用の面でメリットがあります。以下では、野立て太陽光発電の詳しいメリットを5つ説明します。

FIT制度により長期安定した収入が得られる

野立て太陽光発電はFIT制度(固定価格買取制度)により、長期間にわたり安定した収入が得られます。FIT制度とは、電力会社が一定期間、固定価格で電気を買い取ることを保証する制度です。出力容量が10kW以上の産業用太陽光発電の場合は、20年固定で買い取りが約束されます。

他の投資に比べ利回りが高い

野立て太陽光発電投資は、不動産や株など他の投資と比べて利回りが高いこともメリットのひとつです。たとえば、不動産投資の利回りは3%から7%、株式投資の利回りは3%から5%といわれています。これに対して野立て太陽光発電の利回りは、平均して7%から10%で、日当たりがよい土地だと10%を超えることもあります。

空き地など土地の有効活用ができる

実家が空き地を持っている場合や、未開拓の耕作放棄地などがある場合は、野立て太陽光発電によって有効活用できます。災害などに対するリスクマネジメントや日照時間によるシミュレーションを行い、利益が得られると予想できる場合は発電設備を設置するだけで始められます。土地を有効活用して収入も得られるため、一石二鳥といえます。

少ない資金で始められる

野立て太陽光発電のメリットには、手元にある資金が少なくても始められることも挙げられます。各銀行や大手信販会社にはソーラーローンという融資プランがあり、低金利で発電設備を借りられます。ローンの返済は、投資開始後の売電収入から行います。審査に通れば、自己資金0円から野立て太陽光発電を始められるため、初期費用の調達に困っている方におすすめです。

電気代の節約に繋がる

野立て太陽光発電を行えば、電気代の節約もできます。法人の場合は、太陽光発電で生み出した電気を自家消費できます。野立て太陽光発電を行い自力で電力をまかなえば、電力会社から購入する電力量を減らせて電気代を節約できます。

野立て太陽光発電のデメリット4つ

野立て太陽光発電には、自然災害や費用面でのデメリットもあります。以下では野立て太陽光発電のデメリットと、その対策方法について解説します。

固定資産税の課税対象になる

野立て太陽光発電を行う場合は、固定資産税を納税する義務が発生します。野立て太陽光発電の設備は固定資産に当てはまり、土地と設備の固定資産税を毎年納める必要があります。しかし、減価償却によりある程度節税できるという点もあります。

自然災害による損壊リスクがある

すべての設備を屋外に設置する野立て太陽光発電では、自然災害によって損害を被る場合もあります。台風での飛来物による太陽光パネルの飛散や、豪雨による発電設備の浸水被害など、自然災害により想定される被害はさまざまです。ハザードマップを確認して災害リスクの少ない場所に設備を設置する、自然災害に有効な保険へ加入するなど、事前にできる対策を行いましょう。

初期費用が高額になる

野立て太陽光発電は家庭用の太陽光発電と比べると、初期費用が高額になるという面もあります。土地を持っていない場合は、土地を確保するための費用も別途必要です。ソーラーローンなどの融資も検討しながら、無理のない範囲で野立て太陽光発電を行いましょう。

近隣トラブルが発生する可能性がある

近隣トラブルが発生する可能性があることも、野立て太陽光発電のデメリットのひとつです。太陽光パネルに当たった光による光害トラブルや、パワーコンディショナーによる騒音トラブルなど、周囲への配慮不足によって問題が起こる場合があります。事前に対策を行い、またトラブルが起こった際の対応についても検討しておきましょう。

野立て太陽光発電の年間収支のシミュレーション

野立て太陽光発電で売電を行い、年間でどれくらいの収入が得られるかシミュレーションするためには、まず年間発電量を計算しなければなりません。年間発電量を計算したら、売電単価とかけることで年間売電収入を導き出せます。

年間発電量を求めるための計算式は、「出力容量(kW) × 日射量(kWh/㎡/日) × 想定される損失の割合 × 365(日) = 年間発電量(kWh/年)」です。

日射量とは、1日、1㎡、何kWhの太陽エネルギーが得られるかを指します。また、損失とは発電における若干のロスのことです。太陽光パネルの汚れや、温度上昇などによる出力の損失を想定しています。

日射量と損失の値は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のデータを参考にします。日射量は4.39(kWh/㎡/日)、損失係数は0.73と仮定して計算をします。

年間発電量を求めたら、次に売電単価とかけ合わせます。計算式は、「年間発電量(kWh/年) × 売電単価(円/kWh) = 年間売電収入(円)」です。売電単価は、出力容量により異なります。資源エネルギー庁が公表しているFIT制度による2024年の売電単価は、10kW未満は16円/kWh、10kW以上50kW未満は10円/kWh、50kW以上は9.2円/kWhです。

それではここからは、野立て太陽光発電の年間売電収入を設備容量別にシミュレーションしていきます。容量は、産業用太陽光発電として認められている10kW以上を想定します。2パターンの、10kW以上50kW未満と、50kW以上に分けて計算します。

まず、10kW以上50kW未満の容量の年間売電収入をシミュレーションします。出力容量を30kWとして年間発電量を計算すると、「出力容量 30(kW) × 日射量 4.39(kWh/平方メートル/日) × 想定される損失 0.73×365(日)」で、年間発電量は約3.5万kWh/年と計算できます。

ここに10kW以上50kW未満の売電単価をかけると、「年間発電量 3.5(kWh/年) × 売電単価10(円/kWh) = 35万円」と計算できます。50kW未満の場合は発電量の3割を自己負担しなければならないため、売電できるのは残りの7割となり、結果に0.7をかける必要があります。したがって、10kW以上50kW未満の野立て太陽光発電の年間売電収入は、24.5万円とわかります。

次に、50kW以上の出力容量の年間売電収入をシミュレーションします。出力容量を100kWと仮定すると、「出力容量 100(kW) × 日射量 4.39(kWh/平方メートル/日)× 想定される損失の割合 0.73 × 365(日)」で、年間発電量は約11.7kWh/年と計算できます。

この値に売電単価をかけると、「年間発電量 11.7(kWh/年) × 売電単価 9.2(円/kWh)= 年間売電収入 約108万円」と計算できます。したがって、50kW以上の野立て太陽光発電では年間約108万円の売電収入が得られます。

野点て太陽光発電の注意点

野立て太陽光発電を始めて後悔しないためにも、以下の3つのポイントに注意しておきましょう。

特定の地域では出力制限がある

野立て太陽光発電ではエリアによって出力制限がかかり、想定していた売電収入が得られない場合があります。必要以上の電力が発電された場合、電力供給設備の負荷を減らすために、電力会社が発電者に対して発電量に制限をかけます。九州などの西日本での制限が多いため、野立て太陽光発電を始める際は注意が必要です。

土地によっては追加で費用がかかる場合がある

新たに土地を購入する、農地転用の手続きが必要、土地を整備するために工事をするなどの場合は、追加で費用がかかります。その土地が野立て太陽光発電に適しているか、太陽光発電利用のためにいくらかかるかなどを、業者に依頼して事前に調べてもらいましょう。

農地に設置する場合は手続きが必要になる

農地に野立て太陽光発電の設備を設置する場合は、農地転用の手続きを行わなければなりません。農地転用の手続きとは、地目という土地の利用目的の申請内容を変更する手続きです。野立て太陽光発電の設備は農地には設置できないため、農地転用手続きが必須です。

野立て太陽光発電の固定資産税について

野立て太陽光発電を行う場合は、固定資産税を支払う必要があります。固定資産税とは、土地や住宅、さらに事業用の工場、駐車場、その他物件などの資産を持つ場合に納めなければならない税金です。

野立て太陽光発電は有形固定資産に該当するため、その所有者は固定資産税の支払い義務が生じます。課税対象は、出力容量10kW以上の産業用太陽光発電設備と、それを設置している土地の2つです。また、法定耐用年数の17年間は減価償却により節税ができます。

野立て太陽光発電でかかる固定資産税の計算方法は、資産の評価額に標準税率の1.4%をかけて算出します。

土地の固定資産税の計算式は、「土地評価額 × 標準税率 1.4(%) = 土地の固定資産税」です。土地評価額が1,200万円の場合、土地に課税される固定資産税は16.8万円/年と計算できます。

次に、野立て太陽光発電の設備にかかる固定資産税を計算します。まず評価額算出のために、「発電設備の初期費用 × (1 – 減価残存率 0.064) = 設備評価額」を計算します。初期費用が1,500万円だった場合、設備評価額は1,404万円です。

このとき、設備導入1年目はこの式で計算しますが、2年目から17年目では式が異なります。2年目から17年目は、「前年度評価額 × (1 – 減価残存率 0.127) = 設備の固定資産税」で求めます。

設備評価額を計算したら、標準税率をかけて、最終的な設備の固定資産税を求めます。計算式は、「設備評価額 × 標準税率 1.4 = 設備の固定資産税」です。初期費用1,500万円の発電設備の固定資産税は、約19.7万円/年と計算できます。

まとめ

野立て太陽光発電では、何もない土地に直接発電設備を設置して発電を行います。初期費用としては約1,500万円かかり、その他維持費や諸費用も必要です。計算式によって年間収支が予想できるため、ぜひシミュレーションしてみてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!